今回は長文です。

牛角が1,000店舗を最速7年で出せた理由は3つあります。

前回のブログでも書きましたが、

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牛角の多店舗展開のカラクリ(最速で1,000店舗)についてはまた別の機会に触れますが、牛角は「あの牛角の上カルビが490円!」といった形で昔(2009年6月)やっていました。(今はやっていません。)
で、出てきた490円の牛角の上カルビを見ると明らかに上カルビっぽくなく、安い肉に見えるわけです。いや、実際に安い肉なんです。(笑)
つまり中トロや大トロもそうですが、上カルビ、特上カルビはお店自体でその基準を決めて良いので、安い肉を上カルビとして、それも非常に少ない量で提供していたのが牛角の戦略です。
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のように、安い肉を更に量も少なくしたため価格競争力が高くなり、安価でも利益が残ったのが1つ目の理由です。

2つ目の理由はよく牛角の成功話にでてくる300円で悪口を書くことです。

牛角の三軒茶屋第1号店オープン当時はなかなか経営がうまくいかなかったため、お客さまにアンケートを配り、お店についての悪口を書いてくれた方には300円の割引券をお礼にお返ししていた話は有名です。

焼肉を炭火で食べたいとか、それも安価にカルビを食べたいとか、当時ではあり得ない要望にこつこつ対応していき、結果、牛角は大繁盛店となり、牛角ブームが発生、多店舗展開が可能となったわけです。

私も「牛角という焼肉屋は中落ちカルビを炭火で、それも1人3,000円位で食べられるんだ!」といった話を牛角が多店舗展開を始めた頃に聞き、一度行ってみたい!と思ったのを覚えています。

ただこのお客様のニーズに応える、そして利益が出る仕組みにしただけでは、1,000店舗の展開は出来ません。

なぜならばお客様のニーズに応え、利益が出ているお店は世に沢山あります。

そして7年で1,000店舗にまで出来た経営者はいまだにいません。2012年のデータですが、1,000店舗以上あるのは11社(宅配・お持ち帰り弁当系を除く)です。

1位 ゼンショー(すき家) 4,667店
2位 日本マクドナルド 3,280店
3位 すかいらーく 2,636店
4位 モンテローザ(白木屋・魚民) 1,954店
5位 日本ケンタッキー・フライドチキン 1,550店
6位 モスフードサービス 1,431店
7位 ドトールコーヒー 1,384店
8位 ダスキン(ミスタードーナッツ) 1,381店
9位 レインズインターナショナル(牛角) 1,217店
10位 吉野家ディー・アンド・シー 1,193店
11位 松屋フーズ 1,043店

この中で7年で1,000店舗は牛角のみ。そして気が付いた方もいるかもしれませんが、この中で唯一売られた、つまり株式会社コロワイド社に売却されたのも牛角のみ。

つまりそういった所からも牛角を除く上記10社とは明らかに違う方法で牛角は出店していたことが分かります。

その方法とはずばり、「減価償却を上手く使って銀行からの借り入れをし、レバレッジをMAXにした」のです。

例えば、200万円で焼肉屋を出店するケースを考えます。

200万円の出店費用の内訳は消耗品100万、エアコン等の設備150万、値引き50万とします。最初牛角は大ブームなので、1年後に100万円の利益(粗利益)が出るとします。

さてまず出店費用200万円をなんとか工面しなければなりませんが、

1.自己資金で払って、減価償却
2.すべてをリース
3.銀行借入で支払い、減価償却

という3パターンがあります。減価償却を知らないとこれ以降の話がちんぷんかんぷんなので、まずはそれを簡単に説明します。

例えば、240万円の利益(税引き前利益)が出そうだと分かったとき、240万円の40%(今は法人税減税で少し下がっていますが、事業税含めると40%と仮定)にあたる96万円の税金を取られるので、税金を減らすため、240万円のクルマ(新車)買ったとします。

240万円のクルマをその会計期間の最後の日に買った場合は、実際に240万円を支払う事になりますが、それで利益がゼロとなり、税金96万円を払わなくても済むとなると日本国家が破綻します。

よって日本国家は240万円の新車は6年間使えるから、1年間で40万円だけ利益を消してもいいよという法律を作っています。これが減価償却です。

つまり240万円の利益が出そうで、240万円を新車の購入に使っても、40万円しか経費として認められないので、240万-40万=200万円に対して税金40%、80万円がかかります。

でも240万円使っているため、80万円払えません。

更に厳密に言うと、この新車を会計期間の最後の日に買ったとすると、日割になるため、40万円の365分の1日しか経費計上出来ません。

つまり240万円の利益が出そうだ!と会計期間の最終日に分かり、240万の新車を買っても、40万÷365日=1,095円となり、240万-1,095円=239万8905円に対して税金がかかります。

分かりやすくいうと、利益が出たからその分、モノを買っても税金は免れないのです。

この1年に40万、さらにはもしたった1日だったら、1,095円を利益から消せる、それが減価償却です。

さて減価償却が分かったところで、本題に戻りますが、

1.自己資金で払って、減価償却
2.すべてをリース
3.銀行借入で支払い、減価償却

という3パターンがあり、どれを採用するかによって出店スピードが大きく異なるのです。

結論からすると、牛角は「3」を採用しています。

まずは「1」の自己資金で払って減価償却するケースを説明致します。

出店に必要な200万円(200万円の内訳は消耗品100万、エアコン等の設備150万、値引き50万)を自己資金で払うのですが、値引きの50万円は設備の150万円の方をメインに引いてもらいます。すると、消耗品100万円、設備150万→100万円となります。

消耗品は一括で費用計上(300万円までの特例利用)できます。

またエアコン等の設備の100万円の方は“やり方”によっては短い期間(6年)で原価償却するので、100万円÷6年=約16万円費用計上出来、初年度は100万+16万=116万円費用計上できる事になります。

この“やり方”によってはの意味ですが、天井に埋め込まれているタイプのエアコンは家のエアコンとは異なり、持ち運びが出来ない事から、建物付属設備という取り扱いにかわり、結果、耐用年数の長い13年で減価償却します。

しかし天井には埋め込まれていないタイプの、いわゆるむき出しのエアコンは家庭用と変わらないため、6年で減価償却出来るのです。(注1)

よって初年度は100万円の利益(粗利益)ですが、費用が116万円かかるので、1年後の損益計算書は16万円の赤字(営業損益)となります。このタイプは銀行は赤字となるため、お金を貸したくなくなりますが、自己資金でやっている(=銀行からは借りない)ので、銀行に嫌われても構わないのです。

翌年も同じく100万円の利益(粗利益)が出る場合、費用計上は2年目の減価償却が16万円しかないため、84万円の黒字(営業利益)になります。実際には16万円の繰越損失があるので、68万円(84万-16万)(税引き前利益)に対して税金がかかります。

つまりこのタイプは翌年には一気に利益(営業利益)が出るし、税金も少ないので、非常に健全なタイプなのです。逆に翌年、100万円の利益(粗利益)が出ず、飽きられてしまい、たとえ利益(粗利益)が30万円になっても14万円の黒字になります。

次にリースにしているケースです。

設備投資の200万円を全額リースにするのですが、このリースは通常5年払いです。1年間に払うお金は、200万÷5年=40万円です。実際にはリース料という利息みたいなものが付くので、支払額はもっと高いのが通常です。

今回そのリースの利息にあたる部分は無視します。

このリースのメリットは、リース料すべてが費用計上出来ます。初年度は100万円の利益(粗利益)なので、40万円費用計上することで、60万円の黒字(営業利益)となります。税金もこの60万円に対してかかります。

翌年も100万円の利益(粗利益)であれば、同じく60万円の黒字(営業利益)ですが、飽きられてしまい、30万円の利益(粗利益)になってしまうと、30万-40万=10万円の赤字(営業損益)となります。

こうなると銀行は赤字なのでお金を貸したくなくなります。

しかし、このケースも別に銀行からお金を借りてビジネスをやっているわけではないので、問題ありませんが、リース会社にも嫌われ、出店は厳しくなると思います。

では最後に、牛角が採用していた銀行借入でレバレッジをMaxにして支払い、減価償却するケースについて説明します。

まず200万円全額を銀行から借ります。正確には最初の数ヶ月分のランニングコストも含め、200万円以上を借り入れるケースが多いのですが、他と純粋な比較が出来なくなるので、200万円借りる形で説明をします。

この「3」の場合、値引きの50万円は消耗品の100万円の方をメインに引いてもらいます。

すると、消耗品100万円→50万、設備150万円となります。消耗品は一括で費用計上できます。また設備の150万円は天井に埋め込むエアコンにして、原価償却を13年とか長いお店づくりをします。

すると1年で約12万円(150万÷13年)の費用計上が出来、初年度は消耗品の50万とプラスして62万円が費用計上できる事になります。

初年度は100万円の利益(粗利益)ですが、費用が62万円かかるので、1年後の損益計算書は38万円の黒字(営業利益)となります。このタイプは銀行は黒字なので、お金を貸したくなります。

そして初年度からこの38万円に対して税金をがっつり取られます。

翌年も同じく100万円の利益が出る場合には、費用計上は2年目の減価償却が12万円しかないため、88万円の黒字(営業利益)になります。初年度から黒字で、繰越損失もないので、88万円に対して税金がかかります。

逆に翌年飽きられて、たとえ利益(粗利益)が30万円になっても12万円しか費用計上出来ないので、18万円の黒字(営業利益)になり、18万円からがっつり税金を取られます。

つまり、30万円と売上が下がっても黒字なので、銀行は更にお金を貸したくなります。

ここで重要なポイントはこの「3」の場合は自己資金ではなく、銀行から借り入れをしてお店をやっているため、銀行への返済が別途ある事です。

銀行への支払いは税引後から行われるため(←重要)、2年目飽きられた場合は、18万円の黒字(営業利益)から税金を引かれた11万円(税引後利益)の中から返済をしなければなりません。

200万円を5年で借りると1年で返すお金は40万円。

初年度は38万円の黒字(営業利益)、そこから税金を取られるので、手元には23万位(税引後利益)しか残らないはず。

つまり40万円の返済をするとキャッシュフロー上は17万円のマイナス。

繰り返しますが、財務上は黒字なのに17万円がキャッシュフロー上なんと初年度からマイナスなのです。

ところが翌年は、88万円の黒字(営業利益)に対して税金がかかるため、53万位(税引後利益)が手元に残るとすると、40万円の支払は可能です。

しかし、もし88万円の黒字(営業利益)ではなく、飽きられ、利益(粗利益)が30万円になって18万円の黒字(営業利益)のケースは火だるまです。

先程言ったとおり、18万円(営業利益)から税金払って12万円位(税引後利益)しか残らないのにそこから40万円を払わなければならないからです。

そうなると銀行にお金を返せないので、銀行から更なる借り入れをします。

そして更にはもっと出店をして利益を増やそうとしたり、フランチャイズをはじめたり、雪だるま式に借金が増えるため、出店を止められない(止めたら即死)というスパイラルに入ります。

つまり「3」の牛角モデルは利益(粗利益)がずっと100万円でればよいのですが、飽きられたりでもしたら、一気に火だるまになるモデルなのです。

ちなみに、この「3」は銀行からの借り入れだけでビジネスを成り立たせているため、お金がなくても出店が出来ます。

そのため、牛角は飽きられた後、財務諸表上は黒字でも、キャッシュフロー上は大幅なマイナスで、それを補うためにも銀行からの借り入れが必要で、そのためには出店をしなければならないという状況だったのです。

この様な出店攻勢をしている会社は前述の牛角以外の10社にはなく、ある程度自己資金を出した出店をしているため、財務状況が悪化し、売却となったりまではしないのです。

この様な状況で牛角の財務体質をよくするには、赤字店を閉店し、一括費用計上(多分、特損計上の方が営業利益が黒字に見えるため、財務諸表上は見栄えがよく、そちらを使用)して、税金の支払をしないようにするしか方法はありません。

とはいえ、莫大なマイナスキャッシュフローは続くわけで、相当経営体質の強い会社でなければ、牛角を買う事は出来ません。

牛角を買ったコロワイド社は2016年6月時点での時価総額1,370億、売上2,340億の企業だからこそ買収出来た(注2)のです。

この様に、「3」の方法を使えば正直お金なんてなくても多店舗展開出来ます。

しかし同時に大きなリスクも背負うことになります。

よって経営者はバランスのある経営を心がけなければならないと私は思うのです。

注1:http://www.ochiaikaikei.com/mlmg/201508181044_1122.html
注2:実際にこの売上には牛角の売り上げも入っているので、買収した当時の2012年3月時点では売上1,019億円。